前書き(続)
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はじめに: 「よーく考えよう。規則は大事だよ」−−とても濃厚な前書き

 

2. 命令法だけが命令か

ここでは「ブラジルでは動詞の直説法現在3人称単数形で、命令文を作ることができる」という現象について、「なんでそうなるの」という話です。結果は分かったからいいや、という人は飛ばしていただいても結構です。ただし、話はブラジルでtetiteucontigoなどがよく使われる事情やvocêの立場と絡んで広がります。面白いです。

まずは、こちらをお読みください。

O cara está jantando num restaurante, mas a comida é tão ruim que ele não agüenta:

-Garçom, por favor, eu não consigo comer esta comida.  Me chama o gerente.

-Não adianta.  Ele também não vai conseguir comer.

********

その男は、とある食堂で夕食をとっているが、料理はあまりにもまずく、とても耐えられない:

「おい、ボーイ君、ちょっといいか、この料理はとても食べられん。店長を呼べ。」

「ムダムダ。店長にも食べられないでしょうよ。」

********

「食べられない」という客のクレームに対する解決法として、通常であれば謝罪や作り直しなどと考えるところに、ボーイは「(食べられない→手伝い希望)手伝う?(そんなマズイもの)誰にも食えるわけないじゃん」という独自回路でボケをかますという、ブラジルにおける典型的な与太話でした。

*********

さて、ここで、

斜体字でしめされた"chama"。「呼べ」と命令していますが。これは命令法でしょうか?それとも直説法現在3人称単数でしょうか?

命令法は2人称に対するもので、ブラジルでは2人称は(ほとんど)使われないのだから、3人称だろう、というのは、とりあえず無しです。"Te quero." "Te amo." "Como é que é o teu nome?"などという場面では平気で2人称(らしきもの)が出てきますので、もしかしたら、命令に限って、ということもあるかも知れません。

TICTACTICTACTICTACTICTAC・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まあ、このページでは初端にネタバレをしていますので、

正解は「直説法現在3人称単数」なのですが、

では、なぜそう言えるのでしょうか?

TICTACTICTACTICTACTICTAC・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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2-a. 工夫すれば人称が見える

まずは、なんとか人称の確認を試みましょう。

命令文ゆえに隠された主語は、3人称単数なのか、命令法に対応する2人称単数なのか?

「店長を呼べ」という命令は例のように"Me chama o gerente."となります。

chamaは2人称単数のchamasから語尾のsを取り除くという規則どおりに作られた命令法の活用形と、直説法3人称単数の活用形、結果的には同じ形になりますので、これだけを比べては何とも言えません(だから問題になっているわけですが)。

では、仮に相手が2人称単数の "Tu" であるとして、「店長を呼ぶな」という命令はどのように言うでしょうか。

文法ルールに「否定の命令文には(「そうなってほしくない」という非現実性から)接続法現在を用いる」とありますから、

"Não me chames o gerente."となるはずです。

しかし、現実には、

"Não me chama o gerente."と言うケースが大半です。

もっとも、"Não me chame o gerente."(接続法現在3人称単数)にならないところに、裏道のニオイが残ります。人称の特定というこのページの流れからは外れますが、この点は、「直説法は強く言うか、または親密な相手への命令」「接続法は依頼、または丁寧な命令」という肯定命令での使い分けを否定命令にも統一して適用していると見ることができるのではないでしょうか?怪我の功名と言いますか、その結果として、ブラジルでは、

「(肯定・否定に関わらず)直説法現在3人称単数で(強い)命令文を作る。接続法現在3人称単数で依頼、もしくは丁寧な命令を作る」という、実にすっきりしたルールが立ち上げられそうです。

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2-b. 他の場面・使用例で確認・補強する

「起きる」には"levantar-se"という再帰動詞が対応します。ではお母さんが寝坊した子供に向かって「起きなさい」という場面では?

"Levanta-se."と言います。

親密な親子間で、しかもある程度叱責の色も入っていますから、 "Levante-se."(接続法現在3人称単数)はちょっと不似合いということは分かりますが、

"Levanta-te."(命令法・((二人称単数)))でもない、ということに注目です。

では、、、

2-c. 隠れた主語は何なのか?

3人称単数の適用を促している主語は?命令文ということで、取り除かれている主語は何なのでしょうか?

その最有力候補は、"você"です。

池上教授はここで、"o senhor" "a senhora"である可能性を否定しないと記されていますが、先の例で言えば母が息子に向かって"o senhor"と言うとは到底思えませんので、少なくともとりあえずは除外してよろしいのではないでしょうか(あれ、そういう意味じゃないのかな)?

2-c-a. "você"の立位置

ブラジルのポルトガル語では主語の"tu"はまずもって使われませんが、一方で、tetiteutuacontigoなどはバンバン登場します。どのようなときに、バンバン登場するかといえば、親密な相手との口語的な会話です。一方、丁寧に話すべき相手との、より公的な会話ではどうなるかといえば、o (a)lheseuconsigoなどが用いられます。この対応は、主語で言うと、vocêo senhor a senhora)との対応に近いものがあります。

ここでvocêo senhor a senhora)の使い分け、役割を確認します。vocêは親密な相手、o senhora senhoraは尊重すべき、丁寧な言葉遣いをするべき相手ということです。まるで形が違うことから、使い分けに混乱が起きる余地はまずありません。

しかし、対応する与格(あなたを)、対格(あなたに)、所有格(あなたの)となると、全部が全部、o (a)lheseusuaなどとなってしまい、話し手が聞き手に対していだいている親近感あるいは尊重・丁寧の気持ちを言葉遣いの違いによって示すことが、大変困難となっています。

tetiteutuacontigoなどの使用は、この「欠陥」の補完、つまり現れない主語はvocêですよ(o senhora senhoraではないですよ)と「念を押し」親密感を強調する機能を担いつつあると思われます。また逆に、oalheconsigoseusuaなどが、より尊重・丁寧の意思を反映するものとしての立場を得ているとも言えます。

話し手の聞き手に対する意識 主格 与格・対格・所有格等
尊敬・丁寧 o senhor, a senhora o, a, lhe, consigo, seu, sua
親近・親密 você te, ti, contigo, teu, tua

参照−−補足(私見): 「尊敬するvocê」と「親密なvocê」があるという可能性について

これを踏まえると、例えば、「あんたの弟を連れてきな」と言うときに、

"Leva seu irmão."とも"Leva teu irmão."(より親密、例えば母が長男に向かって次男を連れて来いと指示)とも言えることになります。

そして、後者においても、隠れた主語は"tu"ではなく、"であり、"teu""você"に対応したものであり、"leva"は命令法(単数)ではなく直説法現在3人称単数であると、見ることができるのです。

追) o senhora senhoravocêは、主語だけではなく、前置詞"a"に続く与格としての機能も定番化してきています。

参照−−補足(私製): 前置詞に続く与格位置に現れる"o senhor" "a senhora" "você"

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2-d.逆流・リバイバルした"tu"

ブラジルでよく耳にする、"Tu vai amanhã?""Tu já falou com Lívia?"といったフレーズに対して、"vai"ではなく"vais""falou"ではなく"falaste"が正しい、とする文法家もいます。しかしながら、ここでは、上記のようなte, ti, contigo, teu, tuaなどと結びついたvocêの位置に「さらに親密」というコンセプトの元に、あるいはteticontigoteutuaなどからの連想により、逆流して住み着いた「新しい"tu"」という位置づけを考えたいと思います。新しい"tu"は2人称単数ではなく3人称単数であり、動詞の形も当然、vaifalouでなければならないわけです。

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追) 複数に対する命令(『諸相』からちょっと離れます)

複数の命令については、『諸相』の前書きという限られたスペースでは触れられていません。ブラジルで正式とされる文法では、複数に対する命令は必ず、接続法現在3人称複数を用いることとされており、使用頻度的からしてもかなり浸透している様子がうかがえます。ただ、単数との対称・整合性をとらず、強弱・親密の使い分けができない、という状態を指して、「必ず」「絶対」と言われると、とりあえず疑いたくなってきます。池上教授のような鋭い考察はできませんが、密かに自分の調べ物テーマに加えているところです(参照: 命令用法の実際)。

 

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